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有限会社 エンウィット
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ヤマネ研究支援  

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CAD とデータベースソフトを活用した、野生動物の生態研究のためのシステム開発事例をご紹介します。

日本のヤマネ研究の第一人者として知られる理学博士 湊 秋作氏 を中心とした「ニホンヤマネ保護研究会」では、清里の(財)キープ協会・動植物の専門家・多くのボランティアスタッフとともに、国指定の特別天然記念物「ヤマネ」の研究・保護を目的としたさまざまな活動を行っています。

弊社も同会の一員として、IT(情報技術)の導入によって、研究活動を支援するための様々なアプローチを試みています。森に入って実際の調査にも参加し、フィールドでの効率的なデータの記録方法やパソコンを使ったデータのまとめ方を提案したり、観測データのデータベースシステム構築、学会発表用のプレゼンテーション ファイルの制作等を行っています。また、研究に必要なハードおよびソフトのコンサルティング・操作指導・管理、ボランティアグループメンバーのためのメーリングリストの運営・管理などにも携わっています。
ここでは、ヤマネの行動軌跡や行動範囲を算出するためのシステム開発について具体的にご説明いたします。



冬眠中のニホンヤマネ

ヤマネの夜間調査と観測ポイントの特定方法

ヤマネの活動期間中(5月〜11月)は月に1〜2回、ヤマネに蛍光素材を付けて夜の森に放し、その行動を追って明け方まで観察する「夜間調査」を行っています。観察ポイント(主に樹上)には印がつけられ、時刻・ヤマネの取った行動・観察情報などが記録されます。このポイントを時間順に結んだ線がヤマネの一晩の移動距離になり、更にその外郭を囲むとヤマネが一晩に利用したエリア(=ホームレンジ)が出来上がります(下図)。



図1.完成したホームレンジと行動軌跡表現の例

印をつけた樹木は、後日樹木調査によって位置を特定します。観察フィールドには縦横20m間隔で地面に杭が打ち込まれ、それぞれに「杭番号」がつけられています。印をつけた樹木に近い2つの別の杭を探し、それぞれ杭番号と樹木までの距離を計測し記録していきます。さらに2つの杭を結んだ直線をはさんで、ポイントが東西南北のどちらの方向にあるかを特定します(下図)。樹木の位置を地図上に描画する時は、杭の位置を中心として、樹木までの距離を半径に持つ2つの円を描き、その交点をとります。円の交点は2つできるため、方向を特定することによって1つを選択します。



図2.赤印が樹木。青印の2つ杭からそれぞれの距離をはかる。この例では方向は「E(東側)」となる。

主に使用したソフト

  • VectorWorks(図形データベースの作成)
  • Microsoft Excel (データテキストの入力)
  • Jedit(データテキストの整理と調整)
  • AdobePhotoshop (地図製作など)
  • AdobeIllustrator (地図製作など)

開発期間

 行動軌跡・ホームレンジ描画ソフトは最初の打合せから完成まで、約2ヶ月。データ入力や管理などの運用上の調整は現在も進行中。

制作の過程

湊氏との打合せや自分たちが何度か調査に参加した感触から、ソフトの仕様は以下のように固まりました。

  • 調査データのテキストから、調査地図上に観察ポイント・行動軌跡・ホームレンジ図形を自動的に描画する

  • 行動軌跡の距離とホームレンジの面積を計算し、地図上に数字で表示する

  • 描画されたポイントに時刻・行動・備考等の情報を記録し、図形データベースとして管理する

まず、VectorWorksでこの作業のひとつひとつを手作業で行ってみました。ソフト側に用意された標準の機能(正確な図形描画、データベース機能、ワークシート機能)を使って全てのことができました。VectorWorksはMacintosh/Windows で使用できる市販の汎用CADソフトです。わたしたちは、VectorWorks日本語版の開発元であるエーアンドエー株式会社に在籍していたこともあり、操作や機能はだいたい把握していたので迷わずこのソフトを選びました。

そして、蓄積されている過去のデータや今後の調査で集まるデータを効率よく処理するため、一連の処理を自動で行うマクロコマンドの制作にとりかかりました。カスタマイズには、VectorWorksに用意されているスクリプト言語「VectorScript」を使用しました。VectorScriptはPascal言語に似た独自のカスタマイズ言語で、VectorWorksがもつ図形の描画や加工はもちろん、ワークシートやデータベースのほとんどのコマンドを扱うことができます。また、Version 9 からはデバッガも付属し、テストが容易に行える環境が整い、使いやすくなりました(下図)。

  VectorWorksについての詳細は、エーアンドエー株式会社のサイトへ

ヤマネの夜間調査で記録されたデータは一度Excelに入力し(下図)、tabテキスト形式で取り出します。マクロはこれを読み込むことから始まります。



Excelでまとめられたデータの一部

杭番号から杭のXY座標が特定されるため、前述の図2の方法でポイントのXY座標を求め、基準点(×印)を配置していきます。このひとつひとつにレコードフォーマットを結びつけ、観察日・観察時刻・ヤマネの名前・行動などのデータを格納するようにしています(図3)。図形データベースになっていると、必要なときに割りづけられたフィールド内容を検索条件にしたり(図4)、様々な応用が考えられます。



図3.選択されたポイントの情報をデータデータパレットで確認



図4.ヤマネがリサーチ行動(R)をとったポイントを検索し、選択した例。
複数の図形のデータはワークシートで一覧表示することも可能。

作成したポイントから行動軌跡やホームレンジとなる多角形を描画します(前述の図1)。長さや面積はワークシートが持っている関数で自動計算が可能です。



関数で多角形の面積や線の長さを算出する

開発はドリームガーデンソフトウェア・中野洋一氏と共同で行いました。中野氏は VectorScript に関する著作もあり、 VectorWorks 開発の第一人者です。プログラム内部にも精通しているので、今後、更に高度なカスタマイズが必要になった場合でも、中野氏はとても心強いパートナーです。
今回は、 マクロプログラムの根幹となるアルゴリズムは中野氏に依頼し、プロジェクト管理・最終的なスクリプトの整理や改良等を社内で行い、運用開始となりました。

制作上のTips など

プログラムで必要となったいくつかのエラー処理を挙げてみます。
まず、2つの円が重ならず、交点が出来ない場合がありました。単純な数字の入力ミスもありましたが、測量上の誤差によるものも結構ありました。フィールドに設置された杭の間隔は、地面の起伏や傾斜による補正まで正確には行われていないため、杭からの距離は正しく測量していても CAD 上でプロットできない場合があります。また、樹木の林立する森の中で正確に直線距離を計ることの難しさから起こる測量誤差もあります。数 cm の誤差は、野生動物の生態調査では大きな問題ではないのですが、コンピュータはとにかく融通がききません。こうしたエラーは、プログラムでログに記録することにして、フィールドで別の杭から再測量するなどして対処することにしました。
方角の指定が間違っていて、ポイントが特定出来ない場合もありました。これは記入ミスなどの簡単な問題だったので、前者とは別のエラーとしてログに記録し、これも後日フィールドで特定しなおすようにました。

それと、VectorWorksのtipsを2つ。
ポイントは基準点で描画しましたが、これをシンボルに置き換えておくと後で便利です。シンボルにレコードフィールドの文字を一緒に表示するコマンド(「階層」メニューの「文字をレコードに連結」)があります。このコマンドを利用すると、ポイント番号や時刻などを図形と一緒に表示できるので画面上でも一目瞭然、図形を選択してデータパレットを確認する必要がなくなります。もちろんこのまま印刷も出来ます。



観察ポイントと時刻を地図上に表示した例

もう1つは、プログラム内で作成される図形に、データソースのファイル名と行数字を、名前として付けたことです(前述の図3参照。図形の名前はパレットの最上段に表記される)。1つのファイル上に複数のデータソースからデータを読み込んだ場合も、ソースデータと描画された図形を名前で簡単に同定できます。その他に、レイヤやクラスなども図形の属性として検索や表示に便利に使えるので、プログラム内で指定して使い分けています。

VectorWorks の図形データベース機能は、地図上の位置によって相関関係を分析するにはたいへん優れていますが、統計的な分析などは一般のデータベースソフトが便利です。そこで、ここで紹介した夜間調査以外の調査も含め、多様な調査を網羅する基幹データベースを構築し、VectorWorks と連携するように現在改良中です。ここでは、一部の情報で、テキスト取り出しと取り込みによる方式ですが、今後は ODBC 接続や Vector Works のプラグイン開発によって、連携機能を強化する予定です。

今後の課題

今回はヤマネのホームレンジに絞って仕様を決め、開発をしました。もう少しわたしたちなりに研究・リサーチして、将来的には他の動物にも使用できるよう、汎用性のある完成されたプログラムにしていければと思っています。例えば、複数の観察ポイントからホームレンジを作成する方法には、最外郭法、確立長円法、調和平均法などの方式がある他、等高線等によって補正する場合も考えられるので、動物の種類や調査の目的によって、選択できれば理想的だろうと考えています。

ヤマネはとても小さく敏捷で、そのうえ夜行性です。夜の森で20メートル以上もある樹木のてっぺんまで登られてしまうと、葉の生い茂った樹木を地上から見上げてみても、一体何をしているのやらわからないことがよくあります。小型CCDカメラやGPSの発達などもめざましいものがあり、調査フィールドでのコンピュータ活用も重要な課題です。とりあえず、昼間に行う調査にPalmなどのPDAを導入する簡単なテストを始めました。まだまだ試行錯誤の途上ですが、少しでも労力やミスを軽減できるようなシステムを開発していきたいと考えています。

夜間観察をした分だけ、調査地マップにホームレンジがどんどん増えいき、その中からわかってきたこともあります。湊氏は学会誌や著作などでその成果を発表していますが、ヤマネミュージアムやWebなどの多様なメディアで、もっとたくさんの方に最新の研究情報をわかりやすい形で発信できないかと考えています。ミュージアムの展示にはコンピュータの活用面から支援していきたいと思っています。

所 感

わたしたちが参加する以前、ホームレンジは1つ1つ手書きで方眼紙に描いていたそうです。動物の生態研究の分野には専用ソフトが発達していないようで、わたしたちも少し意外でした。人間の探求心というのはすごいエネルギーを生むものだなぁと感心する反面、こういうことにどれだけの時間を費やしてしまったんだろうとも思いました。単純な繰り返し作業は出来るだけ機械に任せ、研究者が自分の目で動物をみる時間や、整理されたデータを並べてゆっくり考察をする時間をもっと増やすことができたら、どんなに良いでしょうか。

パソコンやインターネット技術の進歩は、あまりに速度が早く情報量も多いので、必要なものを探し出すだけでも大変です。そして、情報が多様性を帯びてくると同時に1つ1つが専門化し、慣れない人にはとっつきにくい表現で説明されていることも事実です。しかしそんな些細なことで、最先端の優れた技術が、それを本当に必要としている人のところに届かず、場合によっては廃れてしまうとしたら、情報技術に関わるわたしたちから見てもこんなに悲しいことはありません。これからも出来るだけ広くアンテナをはり、有益なツールをタイムリーに研究に活用できるように努めたいと思っています。

近年、ITをさまざまな分野で活用した事例を目にすることが多くなりました。しかし、そのほとんどがビジネスの分野での成功例として取り扱われています。わたしたちの経験と知識がヤマネという小さな生き物と結びついたことは、そのような経済効果はあまり生まないかもしれません。しかし、50万年前から命をつないできたこの小さな小さな生き物の不思議を知り、守っていくための研究に参加出来ることはとてもうれしいことです。このような機会を与えて下さった湊博士に心から感謝いたします。

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